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三章 一節 「共・犯・者」

Author: 桃口 優
last update Last Updated: 2025-10-21 03:31:31

 人が信じていないものとしては、自分と関わりのない他人ではないだろうか。

 誰かを信じることは素敵なことだけど、相手がどんな人かわからないと信じるのは一般的になかなか難しい。

 でも僕はあることでつながっている会ったこともない他人を信じている。

「ここ、僕の家なんですけど」

「そんなの知ってるわよ」

 僕たちはこんな会話を僕の家の前で繰り広げていた。

 あれから彼女は僕についてきた。どこかで別の方向に行くだろうと思ってたけど、結局家までついてきた。

 彼女はそこにいるのが当たり前のようにしている。どうしてそんなに堂々でできるのだろうか。僕もそんな姿勢を少しは見習いたいぐらいだ。

 しかし、僕のことは何でも知ってるのだと改めて驚く。

 彼女は一体何者なんだろう。

 謎は深まるばかりで、一向に何もわからない。

「そういうことを言ってるんじゃなくて、なんでここまでついてくるんですか」

「今日から私、律の家に住み始めるね」

 ぎゅっと腕にくっついてきた。

 甘い目つきで僕を見てくる。

 僕は感覚が過敏だからぞわっとした。僕は人に触られるのは基本的に好きじゃない。

 振り放そうとしても、強い力でしがみついていて離れない。

 先ほどまでの親の話の時の態度はどこにいったのだろうか。

 本当に心が読めない。

 コロコロ表情が変わってそれについていけない。

 彼女は今何を思っているのだろうか。

 どうして僕に執着するのかがそもそもわからない。

「何でですか?」

「それは、私たちはもう人には言えない関係だし」

 少しほほを赤めているのが、憎らしい。

 演技力は高く評価するけど、断じて何も進展していない。むしろ僕たちの関係は悪化しているはずだ。

 彼女が僕との関係を作らないどころか、周りの関係を壊すから。

「何もしてません」

「うふふ、そんなとぼけないで。私たちは共・犯・者よ。親騙してるでしょ?」

 彼女は楽しそうに話しているけど、全然和やかではないし、笑えない。

 しかし悔しいけど、この件に関してはその通りだからだ。

 お父さんとお母さんには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 本当はすぐにでも連絡したいけど、それは彼女の指示でできないことになっている。

 きっとそれにも意味があるんだろうと僕は彼女を信じている。

 正体さえもわからない彼女だけど、なぜか信じてみようと僕は感じている。

 
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